老後の生活に必要な財産管理契約とは

財産管理や身上監護についての民法上の委任契約は、
一般的に、財産管理契約と呼ばれています。
財産管理契約は、老後の生活で必要となることがあります。
 
そこで、
財産管理契約について、私の著書「99パーセントの人が知らない老後の安心をデザインする方法」より、抜き出して解説させて頂きます。
 

身体の衰えの場合に任意後見契約は使えないので財産管理契約が必要

 
内閣府の平成28年版高齢社会白書によると、平成24年(2012年)には65歳以上の認知症高齢者が462万人いたとのことです。これは、65歳以上人口の約15パーセントを占めます。65歳以上高齢者の約7人に1人が認知症ということです。
任意後見契約は、将来、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力に問題が生じた場合に備えて契約するものです。そこで、任意後見契約を締結した高齢者本人が、認知症になった場合には有効に機能します。
では、認知症にならず判断能力に問題はないのですが、身体の衰えによって生活支援が必要となった場合はどうでしょうか。
残念ながら、任意後見契約は役に立ちません。
任意後見契約は、契約した高齢者本人の判断能力が低下するまで、任意後見は開始しないという制約があります。そこで、身体的に日常生活に支障があることから財産管理等の事務を頼みたいときには使えないのです。
では、どのように備えたらよいのでしょうか。
この場合には、任意後見契約とは別に財産管理や身上監護についての民法上の委任契約を締結する方法があります。
 
 

財産管理契約とは

 
任意後見契約とは別の、財産管理や身上監護についての民法上の委任契約は、一般的に、財産管理契約と呼ばれています。
実務では、将来自分の判断能力に問題が生じた場合に備えて、任意後見契約を結ぶときに、任意後見が開始されるまでの間のために財産管理契約を同時に結ぶことが多くなっています。
財産管理契約と任意後見契約を同時に締結することには、以下のようなメリットがあります。
本人の判断能力は問題無いものの、高齢になり身体的に日常生活について支援が必要で財産管理等が必要な場合には、財産管理契約により事務処理を行ってもらいます。そして、本人の判断能力に問題が生じた後は、任意後見契約に移行して、引き続き生活支援を行ってもらいます。こうして、切れ目なく生活支援を受けることができるのです。
 
 

財産管理契約による財産上の管理

 
まず、財産管理の具体的な内容を説明します。
判断能力に問題は無くても、高齢による身体障害や、体力の衰えなどで銀行などの金融機関の窓口まで出かけることなどの事務を行うことができなくなる場合があります。この場合、財産管理契約の受任者(財産管理を引き受けた人)に預貯金の管理をしてもらうことができます。また、不動産や動産の管理・保全があります。例えば、高齢者本人の住んでいる家が傷んでいた場合には、修繕について本人と相談して、修繕契約を締結することが挙げられます。その他に、電気代、ガス代、水道代、家賃の支払いなどの事務があります。
高齢者本人の生活上必要な財産上の管理が全て含まれるので、財産管理は幅広いのです。
もちろん、契約上、財産上の管理の一部のみを委任することもできます。
 
 

財産管理契約による身上監護

 
財産管理契約においては、財産上の管理に関する事務のほか、生活および療養看護に関する事務(身上監護)を委任することができます。
では、身上監護の具体的な内容はどのようなものでしょうか。
高齢者本人の生活に必要な介護を受けるための介護契約、高齢者施設に入るための施設入所契約、医療機関等との医療契約、要介護認定の手続きなどが含まれます。
財産管理契約の受任者(財産管理を引き受けた人)は、これらの事務を行うことにより、高齢者本人の日常生活を見守ります。
 
 

財産管理契約でのサポート

 
財産管理契約は、基本的には介護契約を本人に代わって締結する行為などの代理になじむ法律行為を前提としています。
そこで、任意後見契約同様、介護などの事実行為はできないのです。
その場合、任意後見契約同様、財産管理契約の受任者は介護事業者との契約という法律行為を行うことによって、高齢者本人の日常生活をサポートすることになります。
 

財産管理契約では事前に希望を契約内容にできる

 
事前に準備できる財産管理契約及び任意後見契約では、将来身体能力および判断能力が低下したときに、どのような生活をしたいのかなどについて、事前に契約内容について決めておくことができます。
例えば、できるだけ自分の家で過ごしたいので在宅介護を希望することや、施設に入所する場合にはどこの施設がいいかなどの希望を伝えることができます。
実際には、在宅での介護が難しくなった場合に施設へ入所せざるを得なくなる場合もあります。また、希望の施設は満員で入所が難しい場合もあります。
しかし、財産管理契約の受任者や任意後見人はできるだけ、高齢者本人の希望をかなえるために努力することができます。ご本人の在宅介護をできるだけ行い、どうしても、24時間体制の介護が必要となった段階で施設への入所手続きを行うようにすることができます。また、希望の施設への入所が難しい場合には、希望の施設の条件に近い施設を探して入所手続きを行うこともできます。
 
 

財産管理契約及び任意後見契約でできないこと

 

医療行為の同意

 
医師が患者に対して医療行為を行う場合、患者本人の同意を得るのは当然です。
患者には医療行為を受けるかどうか自己決定権があるからです。
しかし、患者本人が例えば脳梗塞で判断能力が無い場合にはどうでしょうか。
親族がいれば、医療機関から、駆け付けた親族に対し医療行為に関する同意書へのサインが求められるでしょう。
では、親族がおらず、高齢者が財産管理契約及び任意後見契約を締結していた場合はどうでしょうか。財産管理契約の受任者や任意後見人は医療行為に関する同意書へサインできるでしょうか。
患者が医師から説明を受け、医療行為を受けるかどうかについての意思表示を表明する権利は患者本人の自己決定権に基づく固有のものです。
医療行為に関する同意書へのサインは、財産管理契約の受任者や任意後見人の代理権には含まれません。
つまり、医療行為に関する同意は、財産管理契約及び任意後見契約における身上監護の事務の範囲を超えた事項ということになります。
ですから、財産管理契約の受任者や任意後見人は医療行為に関する同意書へサインすることはできません。
そこで、事前指示書や尊厳死宣言公正証書を作成し、どの程度の医療行為を求めるのか、高齢者本人が希望を記載することをお勧めしています。
そこでは、例えば、無用な延命治療は不要である旨や、食物が取れなくなった場合の胃ろうはしたくないなどの希望を記載できます。
 

身元引受人

 
医療機関や高齢者施設へ入居する多くの場合、身元引受人が求められます。
身元引受人にはいろいろな意味が含まれています。
財産管理契約の受任者や任意後見人ができない内容も多いのです。
 

葬儀・埋葬

 
財産管理契約および任意後見契約は高齢者本人が生存している間しか効力がありません。
そこで、高齢者本人の死亡後に葬儀・埋葬ができるように、死後事務委任契約が必要となります。
 
いろいろな制度を知って老後の生活に是非ご活用ください。
 
一般社団法人マイライフ協会
代表理事 児玉浩子