老後の生活に必要な法定後見制度

認知症などにより、老後の生活に支障が生じるようになったときに使うのが法定後見制度です。
 
法定後見制度について、私の著書「99パーセントの人が知らない老後の安心をデザインする方法」から、一部抜粋して説明します。
 
 

老後の生活で認知症になったときに使う法定後見制度

 
将来高齢で認知症などにより、判断能力に問題が生じるようになった場合、生活上さまざまな問題を抱えることになります。
具体的には、不動産や預貯金等の財産の管理ができなくなったり、身の回りの世話のための介護サービスを受ける契約を結ぶことも難しくなるでしょう。
では、高齢になり判断能力に問題が生じた場合に使える制度はあるのでしょうか。
実は、あるのです。
成年後見制度です。
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分であるために、契約などの法律行為を自分自身で行うことが困難な人の判断能力を補うための制度です。
具体的には、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身の回りの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割協議をすることなどを後見人等に行ってもらうものです。
 
 

法定後見制度と任意後見制度

 
成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度に分けられます。
法定後見制度は民法上の制度です。法定後見制度は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。
では、どのような違いがあるのでしょうか。
後見については、民法7条に規定があります。
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」
精神上の障害とは、具体的には、認知症、知的障害、精神障害などのことをいいます。
事理を弁識する能力(事理弁識能力)とは、自己の行為の結果などを理解することができる能力をいいます。
また、保佐については、民法11条に規定があります。
「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。」
そして、補助については、民法15条1項に規定があります。
「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。」
条文から、被後見人(後見される人)、被保佐人(保佐される人)、被補助人(補助される人)の違いは、認知症などによる判断能力が欠ける程度の違いであると分かります。
判断能力が常に欠けていれば「後見」が必要になり、判断能力が著しく不十分であれば「保佐」が必要となり、そして判断能力が不十分であれば「補助」が必要となるのです。
将来高齢になり、判断能力に問題が生じた場合に、自分の状況に合わせて、「後見」「保佐」「補助」を使い分ければ良さそうです。
 
 

本人が申し立てるのが難しい法定後見制度

 
法定後見制度を利用するためには、家庭裁判所へ申立をしなければなりません。
法定後見制度の申立は、本人の認知症、知的障害、精神障害などにより、判断能力に問題が生じた場合にできます。
近くに子どもや親族がいれば、子どもや親族が申立をしてくれるでしょう。
では、実際はどうでしょうか。
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-平成28年1月~12月-」によると、申立人については、本人の子が最も多く全体の約29.1パーセント、次いで兄弟姉妹その他親族を足して約25.3パーセントでした。やはり、申立人は親族が多数を占めていることが分かります。
では、頼れる子どもや親族がいない場合はどうでしょうか。
条文上、本人も申立てができることになっています。
本人が申立てた場合は、平成28年には4364件ありました。この中には、100件強の任意後見監督人(後述)の選任の申立が含まれていると考えられるため、法定後見制度の申立は約4200件ほどだと考えられます。全体の申立件数が3万4429件ですので、約12.2パーセントにすぎません。本人申立の中には、「後見」「保佐」「補助」がすべて含まれています。
高齢になり、物忘れがひどくなったなどの自覚症状があり、不安に思い、本人が申立を行えるのは、「保佐」や「補助」など判断能力の欠ける状態の程度が軽い場合ではないでしょうか。
高齢になり認知症等により判断能力に問題が生じた場合、実際に本人自身が「後見」の申立ができるのでしょうか。
判断能力に問題が生じた場合、申立手続きを行うこと自体が困難だといえます。
それにも増して、本人が判断能力に問題があることを自分自身で自覚すること自体が困難だと考えられます。
そのように考えると、申立件数に占める本人の割合が約12パーセント程度であるのもうなずけます。
頼れる子どもや親族がいない高齢者が、自分で申立てをしなければならない場合、法定後見制度を利用することは難しそうです。
 
 

法定後見人等のデメリット

 
法定後見人等(後見人、保佐人、補助人)は、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任します。
そのため、本人が法定後見開始等の審判を申し立てた場合でも、家庭裁判所が本人の希望通りの人を法定後見人等に選任してくれるとは限らないのです。
そして、希望に沿わない人が法定後見人等に選任された場合であっても、法定後見開始等の審判に対して不服申立てすることはできません。
 

法定後見人等のデメリットを回避する方法

 
法定後見人は本人の希望通りに選ぶことはできません。
では、自分の望み通りの人に、後見人を頼む方法は無いのでしょうか。
もちろんあります。
それが、任意後見制度です。
任意後見制度は、任意後見契約に関する法律に基づく制度です。
将来、判断能力が低下したときに備えて、財産管理や介護に関する契約などを信頼できる人にお願いし、引受けてもらう契約を任意後見契約といいます。
法定後見制度とは異なり、任意後見人は家庭裁判所で選任される必要はありません。
高齢者本人が希望に沿った後見人を選任できるのです。
 
老後の生活では、任意後見契約をうまく活用したいものです。
 
一般社団法人 マイライフ協会
代表理事 児玉浩子